明日7月4日、ついに『ストレンジャーシングス』のシーズン3が公開です!!
NETFLIXオリジナルのドラマですよね。よく聞きますけど…そんなに面白いんですか?
ベーシックなホラー好きは、ほぼ気に入るだろうな。
確かにホラーファンとの親和性は高そうだけど、そこまで…?
では、その理由をご紹介しますね。
『ストレンジャー・シングス』
予告編
あらすじ
1980年代、1983年11月6日、インディアナ州の田舎町ホーキンスで、12歳の少年ウィル・バイヤーズが失踪する。ウィルの友達のマイク、ルーカス、ダスティン、そして母のジョイスは必死にウィルを探すが、失踪者は増加してゆく。そんな時少年たちの前に、頭を剃った謎の少女エルが現れる。エルは不思議な力で物を動かしたり人を探したりできるがその力ゆえに巨大な組織に追われているようだった。 少年たちはエルとともに、“裏の世界”へウィルを探しに行く。一方、警察署長のホッパーは重い腰を上げ調査を始めるが、背後に超能力研究所の存在があることを知る。
編集長の一言
“はみ出し者への賛歌”。
関連作品
スティーブン・キング『It』『E.T.』『スタンド・バイ・ミー』、ジョン・カーペンター『遊星からの物体X』はDNAレベルで超濃厚な影響を感じますね。他、『ゴースト・バスターズ』『ハロウィン』『プレデター』などが劇中で直接言及されてます。
その1:80年代はホラーに満ちている
シリーズは、80年代のインディアナ州の片田舎、ホーキンスの町で始まる。この80’s(エイティース)というテーマはドラマの根幹に据えられており、音楽やファッション、小道具での世界観の演出が徹底されている。
ではホラーファンにとって80年代とはどのような意味を持つのか。シーズン1は1983年という設定だが、その前年の1982年は傑作SFホラー『遊星からの物体X』が公開されている。劇中でもマイクの部屋にポスターが貼られるなど、主人公たちはこの映画の大のファンのようだ。
『遊星からの物体X』に先立ち、1973年には『エクソシスト』が空前の大ヒット 、1978年ジョン・カーペンターが『ハロウィン』 でスラッシャーの金字塔を打ち立てている。そして1979年にはSFホラー『エイリアン』が一世を風靡。 こういった70年代の成功があり、80年代はホラー映画が百花繚乱、多くの良作を輩出した。
『ポルターガイスト』『シャイニング』『エルム街の悪夢』『グレムリン』『チャイルド・プレイ』……。 思いつくものをいくつか挙げただけでも、そのスマブラぶりに驚く。
そして、これらのホラーを見てきたファンたちの脳裏には、80年代のアメリカの街角は、原風景のようなものとして焼き付いているのだ。もはやこの年代自体が、ホラーへのオマージュと言えるかもしれない。
実際に劇中にも、多くのホラー映画が登場する。
そのうちのいくつかをピックアップしてみよう。
劇中に登場するホラー映画
シーズン1
『遊星からの物体X』
主人公マイクの部屋には『遊星からの物体X』のポスターが!シーズン1、2を通して何度もカメラに映る。また、放送部の顧問で少年たちの師匠にあたるクラーク先生が、家で彼女と見るビデオも『遊星からの物体X』。多くのホラーファンが、二人の次のようなやりとりにニヤニヤしたことだろう。
「いやだ、気持ち悪い」
「仕掛けを知ってる?」
「なんなの」
「溶けたプラスチックとガム」
『ジョーズ』『死霊のはらわた』
ジョイスの家にはなんと2枚ものホラー映画のポスターが貼られている。1枚は、ウィルの部屋の『ジョーズ』、そしてもう1枚はジョナサンの部屋の『死霊のはらわた』だ。2枚とも、今見ても全く色あせないスタイリッシュなデザインだ。
シーズン2
『ゴースト・バスターズ』
シーズン2は、1984年のホーキンスが舞台だ。1984年公開のホラー映画と言えば、『ゴーストバスターズ』。そしてハロウィンに少年たちが選んだ衣装も、ゴーストバスターズ!4人仲良く映画館に観に行ったんだろうなと想像し、ほっこりする一方、この後の展開の暗示にもなっている。
また、4人で役を取り合い、ウィンストン(最後に入ったパッとしないメンバー)の役をマックスとルーカスが互いに押し付けあうシーンも、とてもリアル。その後ルーカスは、ウィンストンの有名なセリフ「審判の日だ…」という言葉を口にしている。
『ハロウィン』
シーズン2から新たに仲間になるおてんば娘のマックス。ハロウィンではマイケル・マイヤーズの仮面をかぶり少年たちを襲撃。ゴーストバスターズがこの後のデモドックとの死闘を暗示しているのであれば、このマイケル・マイヤーズもマックスの今後の展開を暗示しているのかも。
その2:歴代ホラーへのオマージュがたくさん!
見てきた通り、『ストレンジャー・シングス』はホラーの黄金期であった1980年代を舞台としているため、ホラー映画への直接的な言及も多い。しかし、作品のプロットや小さな設定に秘められたオマージュも、数えきれないほど隠されている。ここではそのいくつかを紹介しよう。
『プレデター』
体をはって大活躍し、シーズン2ではエルの親代わりとなる警察署長のジム・ホッパー。彼の名前には元ネタがある。1987年の『プレデター』で、ゲリラ殲滅の途中プレデターに遭遇し消息を絶つ軍人の名が「ジム・ホッパー」なのだ。発見された時には顔面の皮を剥がされているという、なんとも無残な死に方。
『プレデター』では捜索される側だったジム・ホッパーを、捜索する立場へと置き換え、他の作品の端役に脚光を浴びせることに成功しており、面白い。もちろん同一人物ではないのだろうが…プレデターの公開は1987年で、時代設定も同年だ。もしかしたらこの後軍人になり、『プレデター』シリーズに還っていくなんて展開もありえるかも…?
『スタンド・バイ・ミー』
シーズン1の少年たちが線路を歩くシーン。ホラー好きではなくとも、このシーンがなんの映画へのオマージュかはわかるだろう。
これはもはやオマージュというか…笑。
ネットフリックスで公開されている『ストレンジャー・シングス 大解剖』では、司会のジム・ラッシュに「これスタンド・バイ・ミーそっくりだよね。とぼけないで。」とつめよられ、ダッファー兄弟は「何のこと?あの映画見たことないんだ」と冗談をとばしている。
ダッファー兄弟はこのシーンが相当気に入っているのか、シーズン2でも、ジョーとダスティンの二人に線路を歩かせている。
『It』
シーズン2の新キャラ、ボブの語る印象的な話が、ピエロだ。恐ろしい白昼夢に悩まされるウィルに、自分も昔ピエロの夢に悩まされたものだと言い元気づける。その姿さえ出てこないが、この話を聞いて脳内にあるピエロが浮かんだ人は多いはずだ。そう、みんなのトラウマ、ペニーワイズ。
そして、驚くことに、ボブはメーン州出身。これでピンと来た方は相当なホラーファンだ。
そう、メーン州はスティーブン・キングの作品群の舞台であり、『It』でペニーワイズが眠る街・デリーもメーン州にある。そして、年齢を逆算するとボブがメーン州で幼年期を過ごしたのは1950年代、まさに『It』の時代設定とピッタリ一致するのだ。つまり、ボブが夢に見ていたピエロは、本当にペニーワイズだったのである。
『ウォリアーズ』
シーズン2で登場したエルの義理の姉妹、カリ。彼女はエル同様、研究所で超能力者育成の実験台にされ、脱走後は研究所関係者を一人一人処刑し憎しみを和らげていた。
カリは社会からつまはじきにされた者を集め、仲間を作っていた。この仲間の悪党感が素晴らしい。完全に80年代のパンクなチンピラだ。そして、ダウンタウンを連れあって歩くシーンは、ニューヨークのストリートギャングたちの構想を描いた『ウォリアーズ』を彷彿とさせる構図となっている。
エルはダース・ベイダー?
カリをメンターにすることで、怒りによる力のコントロールを覚えるエル。エルは、憎しみに任せて力を乱用する。さて、この時のエルの髪形に注目してほしい。この頭のシルエットと、能力を使うときのポーズは…まるでダース・ベイダーのようではないだろうか。そしてまさに、この時の彼女はダークサイドに堕ちているのだ。
細かいところまで、しっかりとホラーやSFの要素をいれ込むことで、ダッファー兄弟はサブリミナル効果的にホラーファンを虜にしているのだ。
その3:ボディ・ホラーに舌を巻く
さあ、ここまではホラー作品の登場や、オマージュを中心に見てきた。しかし、そういった雰囲気を取り入れるだけでは、ノスタルジックな楽しみ方しかできないのでは?そう思われる方もいるかもしれない。
確かに『ストレンジャー・シングス』は対象年齢を高く設定していないため、ホラーとしては衝撃度の強いシーンは少ないかもしれない。しかし、かなりの挑戦をしているのも確かだ。
なかでも、もっともホラーファンをうならせたのは、第一の被害者バーバラの身に起こった、ボディ・ホラー的展開であろう。ボディ・ホラーとは、 身体の変容や破壊により恐怖を促す表現をいう。
バーバラは、主人公の姉ナンシーの友達。演じるのは『シエラ・バージェスはルーザー』のシャノン・パーサー。ナンシーが少しずつ不良化するのをたしなめる良きアドバイザーであったが、冷たくあしらわれた末に真っ先にデモゴルゴンに誘拐され、殺されてしまう。そしてその死骸の見た目がインパクト大。
すごくないですか?子供だましではない妥協のない表現に、初め見たときはかなりの感動ものだった。
ところでこのバーバラ、最も善良キャラなのに、真っ先に、しかも最もグロい死に方をしてしまったことで、ツイッターなどmpSNSでトレンドを生み出した。それが、#JusticeForBarb (バーバラに正義を!)というハッシュタグ。このトレンドが功を奏したのか、シーズン2ではナンシーたちが死因を追求し、バーバラの霊は成仏(?)できたようだ。
だが、シーズン2は新たな不正義を生んでしまった。ダスティンの飼い猫のミュースだ。ミュースも非常に善良な猫でったが、ダートに無残にも食い殺されてしまう。もちろん、さっそく#JusticeForMuse(ミュースに正義を!)タグがトレンドとなった。
しかし、この表現もホラー・ファンとしては満点!!犬や猫が最初の犠牲者となるのは、ホラー映画の古典的な表現だからだ(猫好きの自分としては手放しで楽しめないが…)。霊的存在に人間より一足早く気付き、吠えたりうなったりしていた動物が、その後死体として発見される。このようなシーンはもはや、ホラーのコードと化している。
あまり行き過ぎた表現はないが、対象年齢を引き上げないギリギリのラインで恐怖描写を追求してくる部分は、非常によく攻めているホラーだということができるだろう。
キング的な少年成長譚
最後に、『ストレンジャー・シングス』の最も大きな魅力である少年成長譚に触れておこう。このドラマで最も人気なのは、やはり少年たちの活躍にあるだろう。特に、この少年たちは皆はみだしものだ。こういった自分の居場所を持たない少年たちが、仲間との冒険を通して成長するというプロットはこれまでに数々生み出されてきた。『スタンド・バイ・ミー』、『It』、『グーニーズ』、、、。『ストレンジャー・シングス』は、こういった少年成長譚のDNA的な系譜にいる。
では、なぜ今このような物語が再び流行るのだろうか。それは、ジェネレーションの移ろいに、テーマがぴったり合致したからだろう。今まで『スタンド・バイ・ミー』や『グーニーズ』を見てきた世代が大人になり、そのさらに下の世代も社会人になり、子供たちはそもそもそういった映画に触れる機会が少なくなった。このタイミングで登場したのが『ストレンジャー・シングス』だった。
40~50代はリアルタイムで、20~30代は親と一緒に楽しんだ冒険譚。それが、10代にとってはそもそも見たことのない新鮮なものとして映り、3世代が一緒に楽しめるドラマとなっているのだ。
そして、『ストレンジャー・シングス 大解剖』で語られている通り、この作品に一本通っている筋が『はみ出し者への賛歌』だ。これは、『It』のルーザーズ・クラブに似ている。そう、ホラー映画の主人公は、いつもどこかはみ出し者だ。決してマーベルの描くヒーローたちのようではない。そんな彼らは、自分自身にホラーの片鱗を持ち合わせている。トラウマや葛藤。そういったネガティブな要素を持ち合わせている彼らが、怪奇現象にさらされる、これがキング系ホラーの典型的なプロットなのだ。その結果がどうなるかは一律ではない。無残に死んでしまうこともあるだろう。しかし、あまりにも不条理で過酷な現実に立ち向かう姿を、ありのままに描く。これは、現代が80年代にくらべて決して生きやすくなったわけではないことを表すと同時に、ホラーというジャンルの尊さを体現しているように思う。
『ストレンジャー・シングス』は、このように感傷的でありつつも時代に対応したやりかたで、現代のホラーファンのこころをくすぐるのだ。