命の耐えられない軽さ

『ペット・セメタリー』
(1983/アメリカ)

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「ペット・セメタリー」


予告編

ペット・セメタリー – 予告編

編集部評価

総合評価/★★★★☆
ストーリー:★★★★★
ギミック:★★★☆☆
様式美:★★★☆☆
不気味さ:★★★☆☆


編集長の一言

実は、ゲノム編集やクローンにまで通じる、命に関する壮大なテーマが描かれている。

小世の関連作品のおすすめ

キングの作品は、テーマの軸とストーリーがしっかりしていますね。人間の内省を促す深みのある映画として、他に「イット・フォローズ」がエイズについて、そして「ゲットアウト」は人種差別について問題提起をしています。あと、「It」はもう観ましたか?





あらすじ


 メーン州へ引っ越してきたルイスたち一家。新生活を喜ぶのも束の間、目の前の通りがトラックの猛スピードで行きかう危険な道であることを知る。向かいに住むジャドによると、多くのペットがこの道で車にひかれて死んでしまったという。ジャドは、動物たちの埋葬される墓へ、一家を案内する。

 ある日、妻のレイチェルが子供たちを連れ里帰りをしている間に、飼い猫のチャーチがトラックにひかれ死んでしまう。娘のエリーが心に傷を負うのを心配するルイス。その様子を見て、ジャドは彼をある場所へ連れていく。そこにはネイティヴアメリカン・ミクマク族の埋葬地があった。言われるがまま、ルイスはそこへチャーチの死骸を埋める。

 翌日、死んだはずのチャーチが家に戻ってくる。驚くルイスだったが、その姿に昔のチャーチの面影はなかった……。


 
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元ネタは「猿の手」


 この作品はキングの小説を映像化したものですが、原作の元ネタとされる話があります。それが、WWジェイコブズによる小説「猿の手」です。

 指を折ると願いが叶うという「猿の手」のミイラをもらい受けた夫妻。息子が冗談半分で200ポンド欲しいというので、試しに一本目の指を折りますが、何も起きません。願いが叶うというのは、ただの迷信だったのでしょうか。翌日のこと、息子が工場の機械に挟まれ死んでしまいます。悲しむ夫妻でしたが、工場側から渡された見舞金を開けて息を呑みます。そこに入っていた額は、ちょうど200ポンドだったのです……。

 続きが気になる方は、以下のページで全文の和訳を読むことができます。

猿の手(ghostbuster's book web.)


伝説のトラウマシーン


 本作は深い考察を促すストーリー重視の作品。絶叫系ホラーを求めている人は、少し欲求不満になるかもしれません。しかし、ペット・セメタリーには、多くの人にトラウマを負わせたシーンが二つあります。一つは、レイチェルの姉ゼルダです。

 ゼルダは脊髄に病気を患っており、恐ろしい見た目をしていたため家族にも疎まれ屋根裏に軟禁されてしまいます。その状況に流され、レイチェルもゼルダを恐れるようになり、「死んでほしい」とさえ願うようになります。悪夢に出てきそうなほどの怪演とレイチェルの衝撃的告白に、トラウマとして多くの人の記憶に残っているシーンです。

レイチェルの姉、ゼルダ。

 そしてもうひとつは、アキレス腱カット

うわ、聞いただけで痛そう。

もうこれは本編で直接見てみてください……。



リメイク版が公開


Pet Sematary (2019)- Official Trailer- Paramount Pictures

 本作はリブートされ、2019年4月に全世界で順次上映されています。日本公開日は今のところ未定ですが「It チャプター2」の公開が9月のため、10~11月ごろになるのではないかと言われています。
 キングの作品では、Itに次ぐ歴代2位のオープニング興行収入を記録しており、しっかりヒットしています。

 海外の批評を見ると、前半はオリジナル通りに進むようですが、後半に大きなひねりを効かせた展開が待ち受けており、原作と異なる展開にファンの評価は大きく分かれているようですね。

 予告の、仮面をつけた子供たちが森を練り歩くシーン。黒澤明「夢」の狐の嫁入りを思い出させませんか。おそらくオマージュかと思いますが、こういうところで日本映画の影響が見られるとうれしいですね。

ちなみに猫のチャーチルは、アニマルレスキューで保護されている7~8匹の猫が、シーンによって演じ分けているようです。1983版のチャーチルはブリティッシュ・ショートヘアーでしたが、2019年版はアメリカン・ショートヘアー。原作小説のカバーに描かれた猫に忠実なビジュアルとなりました。



鑑賞後のみなさんへ

※ここからはネタバレを含みます。


“命”の軽さと、それを受け入れられない人間。

 この作品では、多くの死が語られます。

 学生のパスコウ、猫のチャーチ、お手伝いのミッシー、レイチェルの姉ゼルダ。 彼らは、決してゾンビや心霊現象によって殺されたわけではありません。彼らを殺したのは、豪速で走るトラックや病。これらの死を通し私たちは、現代の社会問題に対するキングの批判を読み取ります。

 しかし、映画が進み、切なくも狂気に満ちたルイスの姿が描かれることで、私たちは気づかされます。おかしいのはどうやら社会だけではないということに。この作品のテーマは社会問題ではなく、むしろ“命の軽さ”という事実を受け入れることのできない人間にあるのではないでしょうか。

 ルイスは医者として、命の軽さを強く意識しています。夢にでたパスコウに「おれのせいじゃない」と繰り返したり、また「チャーチは死なない」と娘に約束をさせられたときは「君が責任をとれ」とレイチェルを強く責めていましたね。彼にとって、“命”とはいつどうなるかわからないものなのです。

 そんな彼に、ジャドはミクマク族の埋葬地を教えてしまいます。この埋葬地は、人間の“死への拒絶”の象徴。ネイティヴ・アメリカンの残したものであることから、はるか昔から人間がこの拒絶を抱えていたことがわかります。一方で、ミクマク族は埋葬地の危険性も心得ていました。 
 しかし、ルイスは現代医学の従事者。彼はためらうことなく埋葬地を使いゲイジに命を与え、そして奪います。危険性を顧みず永遠の命を追求することこそが使命なのですから。そして終盤の衝撃なラストへ向かって、ルイスはひた突き進んでゆくのです。

それでも人は、死を拒絶する。

 ゲノム編集やクローンの開発など、命を操るまでに進化した科学が日々紙面をにぎわせている現代。私たちは命に大きな価値を置いており、その“軽さ”を語ることは許されません。しかし、本当に命に価値などあるのでしょうか。価値をつけられたものは、商品としての流通を始めます。このように考えると、命に価値を認めることは、皮肉にも、命が商品として扱われてことをも認めてしまうのです。ジャドはこう言っていましたね。

SOMETIME DEAD IS BETTER.

死の方がいいこともある。

 命は等しく軽い。等しくやってきて、等しく去ってゆく。それを人間が勝手に与えたり奪ったりするなんて、命を物として扱う傲慢なことで、ゲイジが言っていた通り「ずるい」ことなのかもしれません。もしもクローンが作られたら、彼らはきっとゲイジと同じように「ずるい」というでしょう。

 それでも人間は死を拒絶し、命に価値を認めずにはいられません。そんな姿を、この映画は描き出しています。命の“軽さ”を受け入れられないルイスに対し、死に向き合うといった安易な解決策を、キングは与えません。そこにはただ葛藤が描かれるだけです。それが、この作品の名作たるゆえんなのでしょう。

残された謎

 この作品には、いくつかの解き明かされない謎が存在します。その中の一つ、ゼルダに関する謎をご紹介しましょう。

 レイチェルが実家に帰るシーンに、1枚の不気味な絵が出てきます。この絵は、着ている服から、幼いころのゼルダであると考えられます。しかしよく見ると、他にも見覚えがあるような……。

ゼルダの肖像画

 じつはこの服装、最後に復活したゲイジの服装と全く同じなのです。そして足元にいる猫は、チャーチと同じ色をしています。これはいったい、何を意味しているんでしょうか。

 ゼルダは、レイチェルが実家に戻っているときに現れ、彼女にこう言います。


「 Gage and I will both get you, for letting us die. 」
ゲイジと迎えに行くからね私たちを死なせた罰だよ。


 ここから、蘇ったゲイジにはゼルダが憑依しているのではないかという説が生まれました。しかし、そんな安直な話なのでしょうか。 そもそも、ゼルダの死はレイチェルのせいではありません。それをレイチェルをたたって出てくるのはお門違い。またこの説では、チャーチに憑依しているのが誰かまでは説明がつきません。

 僕は、“悪霊”こそが全ての正体なのではないかと思います。レイチェルがパスコウの助言で引き返してくる途中、急にタイヤがパンクしてしまうシーンがありましたよね。ここで、パスコウは「悪霊があんたをひきとめようとしてるんだ」と言っています。この悪霊がなにを意味するかはわかりませんが、おそらく怨念の集合体かなにかでしょう。

 ゲイジがゼルダの格好をするのは、レイチェルの前だけ。ジャドやルイスの前では、普通の格好をしています。つまりゲイジに憑依しているのはゼルダ本人ではなく、恐怖の対象を感じとり巧みに姿を変える“悪霊”なのです。 レイチェルにゼルダの霊を見せたり、ルイスに岩が顔になる幻覚を見せたりしたのもこの悪霊だったのではないでしょうか。

 しかし、本当のところはキングにしか分かりません。謎は謎に包まれたままです。

 


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ではまた次回、お会いしましょう。

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