“芸術”に憑りつかれた家

「呪われし家に咲く一輪の花」
(2018/カナダ)

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「呪われし家に咲く一輪の花」

予告編

I Am The Pretty Thing That Lives In The House | Official Trailer [HD] | Netflix

編集部評価

総合評価/★★★☆☆
ギミック:★☆☆☆☆
様式美:★★★★☆
不気味さ:★★☆☆☆

編集長の一言

幽霊が美しすぎる。

小世の予習のおすすめ

シャーリー・ジャクソンの作品を読んでみましょう。他には、元祖洋館住み込みホラーである「回転」。その原作であるジェイムズ「ねじの回転」は、様々な文学批評を誘発した名作です。




あなたが今見ている美しいものは、この私。

これだけは確かだ。

 こんな冒頭から始まる本作、エレガントの一言に尽きます。オズグッド・パーキンス(あの「サイコ」の名優、アンソニー・パーキンスの息子)の監督したこの作品は、決してジャンプスケアの効いたわかりやすい作品とは言えません。くびすじにふいに何かが触れてぞっとするような、そんな感覚にあふれた、いわばアメリカ版の夏の怪談です。

 このフィルムは、ホラー小説家シャーリー・ジャクソンの影響を受けているようです。スティーブン・キングが“この100年で最も素晴らしいホラー作家”と称したこの作家、ここ数年ブームが来ているようですね。

同じNETFLIXオリジナルで爆発的な人気を集めた「ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス」も、シャーリージャクソン「丘の屋敷」が原作となっています。

 ホラー小説家の家に住み込みで働くホスピスの看護師が、だんだんと呪いに巻き込まれてゆく。そんな極めて古典的なゴシック風の設定。そして詩的な語り。ジャンルは迷いましたが、ゴースト・ストーリー、怪談というくくりが最もしっくりきます。

 手っ取り早く驚きたい人には、不向きな一品かもしれません。しかし、ビックリ一辺倒のホラーに飽きたとき、この映画は深みのある考察を鑑賞後に提供してくれるでしょう。昔ながらの怪談話が好きな人も、ぜひ見てほしい作品です。

ある意味破格な主人公リリー

 一般的にホラー映画の主人公とは勇敢なもの。男女を問わず、人影が見えれば追い、物音がすれば探り、墓場があれば入ります。観客の私たちは「ばか、なんでそんなことを!」と言いながら楽しみます。

もちろん心の中では「それでよし」と思っている。

正しいホラーの観方です。

 しかし、本作の主人公リリーは異質です。極端に怖がりで、何かが起きても正面から確かめようとはしません。電話中に背後で何かの気配……普通のホラー映画では、誰かいないか確かめにいくはずのシーン。しかしリリーは横目で気にしつつも、無視。決して彼女が強いからではありません。おびえているからこそ、わざと声のボリュームを上げお喋りを続けるのです。楽しい雰囲気を作らなきゃ。みなさんも身に覚えがあるのではないでしょうか。
 しかし無視された幽霊は、無情にもリリーの手から電話を弾き飛ばしています笑。

 また、家を詮索するときも、まるで部屋のどこかへ消えたゴキブリを探すかのよう。見つけなくてはいけない。けど絶対にいてほしくない。そんな等身大な主人公は、ホラー映画としてはある意味で破格と言えるでしょう。

「壁の中の淑女」

 本作のカギとなるのが、ホラー小説家ブラムの代表作「壁の中の淑女」です。ブラムは認知症を患っており、リリーのことを執拗に“ポリー”と呼び続けます。気になったリリーが、ブラムの遺産管理人にポリーを知ってるかと尋ねると……

彼女の『壁の中の淑女』に、ポリーが出てくる

 リリーは詳しく聞きたがりますが、遺産管理人は自分で読むようにとだけ告げ、さっさと帰ってしまいます。しかし臆病なリリーには、なかなか読み進めることができません。

 ホラー小説の登場人物と間違えられるなんて、不気味すぎます。でもどうやらこの“ポリー”という人物、ブラムにとってはただの登場人物ではないようです。タイトルの「壁の中の淑女」……そして日に日に壁に広っていく、しめったカビ。続きは本編をご確認ください。

 ポリーを演じるのはルーシー・ボイントン。「ボヘミアン・ラプソディ」のメアリーを演じ、話題となった彼女。あまり多くは登場しませんが、あまりにも美しく網膜に焼き付く姿は、必見です。


鑑賞後のみなさんへ

※ここからはネタバレを含みます。

 語り部が幽霊だったという展開をさらっと入れてくるあたり、好印象でした。これみよがしにひねりをいれる映画、増えてきましたからね。
 それと、 「壁の中の淑女」読んでみたいですよね。

 フィルマークスなど確認しても評価が大きく分かれていますが、原因はギミックの少なさでしょう。ジャンプスケアが欲しい人には物足りなさが残るのかなーと。

 あと、NETFLIXオリジナル映画のホラーはつまらない、という色眼鏡で見られていることも多分にあるでしょう。ブラムハウスは面白い、の逆で。自分は期待値が低かっただけに、予想以上に楽しめました。

幽霊の正体は

 海外の批評で非常に面白いと思ったのが、ポリーは作家であるブラムのインスピレーションを表すのではないか、という説です。ブラムは、ポリーにこう語りかけます。

最初はたくさん話してくれたのに。暮らし始めた当初、本が書けるほどだった。そのあとは、黙った。背を向けたのよ

 ブラムは作家です。筆を取っても何も書けない老作家のセリフだと考えると、まるで自分のインスピレーションに向かって話しかけているように見えてきませんか。

 ブラムは、自らの作った芸術に憑りつかれていたのでしょう。

 「壁の中の淑女」の、結末の欠如。そして、闇の中にぼんやりと浮かぶポリーの、つかみきれない姿。これらはすべて、インスピレーションの枯渇を表しています。

 ポリーはなぜ殺されたのか。なぜ目隠しをしていたのか。残された“謎”についていくら考えても、結末には決してたどりつきません。なぜなら、作者のブラム自身が結末を思いつかなかったことこそ、この作品の結末だからです。

「あの本では恐ろしいと思われる結末が意図的にあいまいになっている。彼女がそれを選んだというより義務感からそう決めたとか。テーマと誠実に向き合う義務。
つまり“ポリー”だ。」

 この遺産管理人の言葉の意味がわからなかったのですが、ポリー=インスピレーションであると考えると、すっきりと腑に落ちます。つまり、創造性の枯渇と向き合うことこそが、「壁の中の淑女」のテーマだったのかもしれません。



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